絵本作りワークショップ: メルボルン、薪割り日記
秋のある土曜日、珍しくダンデノン山から下りて街に出かけました。そして、「詩があるところが私のうち」という絵本作りワークショップに参加しました。場所は、メルボルン中心街にある子どもの為の美術施設ArtPlayです。街中と言っても、ヤラ川のほとりの静かな公園内にあります。
ウエブサイト
アートプレイにて、鈴吾郎(私の息子)後ろは、妻の加藤チャコがワークショップをしたときの作品。これも子どもと共作。
ArtPlayはメルボルン市施設で、現役の美術家、音楽家、作家、劇団、コメディアンなどと児童がともに芸術活動を行なう為に5年前設立されました。ArtPlayの目的は、表現活動を通じて「文化的市民権」(cultural citizenship)をメルボルンの全ての子どもたちに与えることだそうです。とりわけ、美術館やコンサートに出かける機会が少ない貧困層の児童、障害のある人たち、新来の移民や難民、そういった人たちにも表現活動を持つ機会を与えることにあります。「市民権」を広く解釈するならば、オーストラリアの文化的活動に誰もが等しく参加することもその権利の一部と考えられるでしょう。
地域社会で活動する編集者と美術家
今回ワークショップに僕は、メルボルン在住の日系子どもの本作家として誘われました。僕を誘ってくれた一人は、絵本編集者ビクトリア・ライルです。彼女は、子どもの書いた詩や物語を絵本にして出版するのが専門です。ビクトリアは英国出身で、ダブリンの子どものための美術施設Arkなど� ��、さまざまな社会的背景を持つ子どもたちの作品を出版してきました。彼女は、オンデマンド(On -demand)出版とインターネットを利用し、大手出版社では取り扱えない小規模の出版、特にコミュニティー・パブリッシングを展開してきました。
ジェリースピネッリが書いたすべての本は何ですか?
僕を誘ってくれたもう一人は、画家のアニー・エドニーです。アニーは、障害を持つ人たちや、僻地に暮らすために芸術制作の機会がほとんどない子どもたちと過去20年あまり、地域社会で美術制作を行ってきました。
英語以外の言語文化を生かした絵本作り
今回の絵本作りワークショップは、英語以外の言語文化のエッセンスを用いて、子どもたちに詩作をしてもらい、それを絵本にするという企画です。オーストラリアにおいて日本語はアジア言語の中でも比較的認知度が高く、アニメなどの愛好者も多いので、広い層の子どもたちに興味を持ってもらえるとアニーとビクトリアは考えたようです。
ビクトリアとアニーは日本語以外にも、オーストラリア先住民アボリジニのラップ音楽家や詩人、スーダンからの難民としてやってきた詩人や音楽家らと共同の絵本ワークショップも企画してきました。こうした様々な文化がちりばめられているのが現代のオーストラリア芸術、文学の特色かもしれません。このワークショップの意図には、英語を第一言語として生活している子どもたちに、英語圏以外の言語文化に触れてもらい、オーストラリア社会の多様性に気づいてもらうということもあります。
絵本ワークショップ
ワークショップには、7才から12才、合計16人の児童の参加がありました。日本語がテーマなので、日系人の子どもも3人加わっていました。
ワークショップの始まりです。子どもたちは、ちょっと緊張した顔つき。最初にビクトリアが、今日のテーマ「詩のあるところが私のうち」を紹介し、絵本作りの手順を説明します。
下絵を描く
なぜ彼らは子供たちの戦争の制服を作るのですか
次に画家のアニーが、子どもたちと絵本の各ページの下地を作ります。「目をつぶって、自分の家にいる気分を思い出してください。そのまま、ゆっくり曲線を紙に描いてみて。」子どもたちは、言われた通り、A3の紙に透明のワックスペンシルでゆっくり曲線を描きます。透明の線なので、まだ自分の描いた曲線は見えません。次に、上から薄く溶いた灰色の絵の具を流します。すると、ワックスで描いた曲線が浮き上がります。何人かの子どもたちは、いろいろな線が浮き上がったのを見て、「うわー」と驚きの声をあげました。
日本の物語、日本語のことば
次に僕が、日本の物語を読みます。今回選んだのは『へそもち』(渡辺茂男作、赤羽末吉画)です。英語の題は、The Thunder Boy。『へそもち』は、僕の父が民話を元に創作したお話です。絵は、赤羽末吉さんが、屏風の絵を参考に、全ページ縦長に描いた日本情緒あふれるものです。また物語には、日本語特有の擬音語、擬態語(オノマトペ、がらがら、どすん、などの擬音)がふんだんに使われています。オノマトペは、日本語の物語には多用されますが、英語ではそれほど使われません。だから、今回は、あえて英語の詩作に日本語の擬音語、擬態語を取り入れてみることにしたのです。でも、これは私が初めて考えたことでなく、オーストラリアの絵本作家、Sally Rippinの絵本にも、日本語の擬音語、擬態語が取り入れられたものがすでにあります。
サリーリッピン作品について僕が書いた記事
サリー・リッピンウエブサイト
『へそもち』の物語は、僕自身が英訳して語りました。でも、日本語のオノマトペ(ぴか、ごろごろ、がらがら、どろん どろん、など)は、そのままで語りました。オーストラリアの子どもたちは、雷が人のおへそを盗って食べてしまうという物語を愉快そうに聞いていました。
詩を書く
アクションの研究論文の根拠は何ですか
読み聞かせのの後は、英語でも使われている擬態語、擬音語を子どもたちに挙げてもらうブレインストーミングをしました。そして、今度は、それらを使って詩を書いてもらいました。テーマは、「わたしのうち」です。日系人の子どもの中には、日本語のオノマトペを用いて詩を書いている子もいました。
下絵を完成させる
詩を書き終わると、そろそろ最初に描いた下絵が乾いたので、今度は、その上にペンで詩を書き込んでもらいました。それから、千代紙をちぎったのを貼付けてコラージュを加えます。それ以外にも、細かいイラストを書き込んでいる子もいます。
ページレイアウト
次に、編集者のビクトリアは、子どもたちと絵本のページレイアウトをします。子どもたちの書いた各ページをカラーコピー機で縮小コピーし、それを台紙に張っていきます。参加者が16人いたので、表紙も入れてちょうど16ページの絵本になりました。
製本
レイアウトがすむと原稿が出来上がり。原稿をカラーコピーでさらに両面コピーし、折って、ページを裂き、ホチキスでとめると絵本の出来上がり。子どもの人数と保存用部数も入れて、初版印刷部数は25部!
絵本の題名は、『オノマトポエム』です。「オノマトペ」とと「ポエム」をくってけた造語です。これも子どもたちが考えました。
ワークショップの最後は、子どもたちのお父さんやお母さんの前で作品を朗読してもらいました。自作の絵本ができて、子どもたちは得意満面でした。
ワークショップは、昼過ぎに始まり、休みもとらずに続き、夕方4時半に終わりました。子どもたちも、ずっと作業に集中していました。そんなですから、ビクトリアも、アニーも、僕も、終わった後は、へたりこむほど疲れました。でも、大変充実したひとときでした。
絵本作りワークショップの意義
僕は、日頃物語を書いたり、児童文庫で絵本を読み聞かせたりしてきました。でも、それは一方通行的な行為です。子どもたちにも自分を表現してもらい、それを大人の表現者が一緒になって整え、何かの形に完成させることも、すごく大事であることが今回のワークショップでよく分かった気がします。
また、DTPのようなコンピュータのソフトを用いなくとも、カラーコピー一台で、こんなに素晴らしい絵本が出来てしまうことも驚きでした。テクノロジーは最低限のものであっても、効果的に使うとこんなに素晴らしい結果が生まれるのだということも新鮮でした。
0 コメント:
コメントを投稿